事業承継とM&Aの違いとは?メリット・デメリットも解説

事業承継とM&Aの違いとは?メリット・デメリットも解説

会社などの事業経営を後継者に引き継がせる「事業承継(じぎょうしょうけい)」。経営基盤の資産が経営者名義であることが珍しくない中小企業において、経営者の交代は事業の今後を左右します。また、預貯金や不動産などの個人の資産を引き継がせるような遺産相続とは手順が異なるので、経営者の悩みの種と言えるでしょう。そして、企業の合併(Merger)と買収(Acquisition)を意味する「M&A」(エムアンドエー)は、事業を経営権ごと売却するという、最近増えてきた事業承継の一つの形です。この記事では、事業承継とM&Aの基本知識を確認しつつ、M&Aで事業承継するメリット・デメリットをご紹介していきます。

1.M&Aによる事業承継が注目される背景

会社の経営権やブランド、取引先など、事業に関係する全てを引き継がせる「事業承継」

簡単に言えば、社長(代表取締役)の交代です。大きな規模の企業では、経営者の交代は珍しくありませんが、それは経営に関する資産などが、経営者名義になっていないためです。

一方、事業経営に関わる資産などが経営者自身の名義のままであることが珍しくない中小企業では、経営者が変わるとなると、自社株や事業基盤となる資産の買い取り、相続税の支払いのための多額の資金が必要になります。しかし、事業承継ができないと、廃業するしかなくなってしまうため、事業承継は中小企業や個人事業主の悩みの種と言えるでしょう。

「日本の経済を支えている中小企業の7割が後継者不在」と言われる、そんな実状を打開するため、国も事業承継強化キャンペーンを打ち出しました。「事業承継5カ年計画」という、2018年から5年間、事業承継の集中実施期間と定め、強化支援を行うものです。その流れを受け、各金融機関でも事業承継を推し進める融資商品が目立ってきています。昔は「親族でなければ事業承継と定義しない」という金融機関が多かったようですが、近年では、親族以外に事業を引き渡す事業譲渡や、企業合併・買収などのM&Aによる事業承継も事業承継として扱うようになり、低金利で優遇する融資商品が目立ってきています。中小企業庁出典の次の図からも、20年以上前には親族での承継が8割を超えていましたが、近年では親族外の事業承継が6割を超え、逆転しているのがわかります。

事業承継とM&Aの違いとは?メリット・デメリットも解説

 

2.事業承継のパターン

M&Aによる事業承継についてご紹介する前に、事業承継の2つのパターンと必要な資金などの基本を押さえておきましょう。

①親族や従業員に事業承継する

②親族以外に事業承継する

そのパターンごとに見ていきましょう。

①親族や従業員に事業承継する

親族や従業員などの身内に事業承継する場合、必要になる主な資金は次の2つです。

・遺産相続や贈与などで親族などに分散した事業基盤となる資産(土地、自社株など含む)を、後継者または会社が買い戻すための資金

・遺産相続や贈与などで得た事業基盤となる資産(土地、自社株など含む)の、相続税や贈与税を、後継者が納付するための資金

身内での事業承継を行う場合、相続税や贈与税の負担が膨大です。事業承継が相続とイコールだからです。

「遺産相続」という枠組みで見てしまうと、子の側は事業そのものよりも目先の資産価値だけで見てしまいます。事業承継の話を避けたまま時が経ち、いきなり親族が相続することになってしまうと、経営者としては力量不足で、事業を存続させたいと思っても時すでに遅く、事業承継に必要な資金の調達もできずに手の打ちようがない、というケースが増えているようです。

事業承継は数年がかりの大事業です。親族内や従業員など、見知った後継者に承継する場合、経営者としてどう振舞うべきかの教育を行う必要があります。また、経営権を確保させるために会社の株式を移転させたり、事業基盤となる資産を買い取らせたり、相続税や贈与税の対策を検討したりする必要があるでしょう。それは同時に、経営者自身の生前贈与などの相続問題にも発展するはずです。そのため、人的にも物的にも代替わりが完了するまでには10年程度を見込んでおいた方がよいでしょう。

2009年経営承継円滑化法を制定し、国はスムーズな事業承継を推進しています。事業承継税制では、後継者が、現在の経営者から会社の株式を承継する際、相続税・贈与税が軽減され、相続分については8割、贈与は全額、5年間の納税猶予が受けられます。

②親族以外に事業承継する

親族以外、つまり見知らぬ第三者に事業承継する場合、必要になる主な資金は次の通りです。

・M&A(企業の合併と買収)によって、事業(土地、株式など含む)を後継者が取得するための資金

M&Aなら短期間で実行できると思われるかもしれませんが、そもそもM&Aの相手がすぐ見つかるとは限りません。また、自分が求めるような相手に理想的な条件で引き継ぎたいと考えるなら、その選定や吟味で数年は見積もっておいた方がよいでしょう。また、M&Aを実施タイミングも重要です。業績が悪化している中でM&Aを実施しようとすると、求めている価格で売却できなかったり、最悪、話が白紙になったりするケースもあります。

なお、前述の「事業承継5カ年計画」は経営者と後継者のマッチング支援や、事業の統廃合を促す環境の整備などを含めて、事業承継を促すものです。

M&Aの手続きは複雑なため、中小企業がM&Aを実施する場合はM&Aの仲介会社に頼むことが多いようです。また、M&Aの方法には株式譲渡、株式移転、株式交換、事業譲渡、事業分割、事業合併などがありますが、中小企業のM&Aでは、株式譲渡または事業譲渡が採用されることが多いようです。

株式譲渡は、売り手側が所有する自社株を、第三者に売却し、経営権ごと譲渡する方法です。社内のみで手続きが完結して手間がかからないため、中小企業のM&Aでの事業承継では最もよく使われる手法です。

事業譲渡は、事業の一部またはすべてを売買するM&Aの方法です。一部の事業のみを売買できる点から、株式譲渡に次いで中小企業の事業承継で採用される手法です。買い手側には、簿外債務や不要な資産を引き継がずに済むメリットがありますが、契約関係や債権債務については、個別に引き継ぐ必要があり、他の方法と比べて手続きが複雑になりがちです。  

簡単にまとめると、株式譲渡は、経営権ごとの事業の全てを譲りたい場合に採用され、事業譲渡は、事業の一部のみを譲りたい際に採用される傾向にあります。

3.M&Aで事業承継するメリット・デメリット

M&Aで事業承継するメリットとデメリットをご紹介します。

【メリット】

①事業が継続できる

事業承継すれば当然、事業を続けることができます。従業員の雇用を守り、地域経済への貢献も続けられるだけでなく、協力会社などへの影響も最小限にできます。後継者がうまく立ち回れば、事業のさらなる成長も期待できるでしょう。

②後継者を外部から広く探せる

親族や従業員の中に後継者がいなくても、M&Aで事業承継する場合、全国規模で探せば、自身が求める条件の後継者が見つかる可能性があります。

②廃業費用がかからず、事業の売却益を得られる

身近に後継者がいない際の選択肢として廃業もありますが、事業を畳むだけでも、かなりの費用や手間が必要となります。M&Aで事業承継すると、こうした費用や手間が一切不要となるだけでなく、売却益も手にすることができます。

【デメリット】

①時間とコストがかかる

何と比較するかにもよりますが、M&Aにはそれなりに時間とコストがかかります。最低でも半年、長くて1年半以上は見ておいていいでしょう。親族で事業承継する場合の後継者教育などを含めた時間とコストを考えれば短いかもしれませんが、M&Aの相手を探したり交渉したり手続きしたりするにはどうしても時間もコストもかかるものです。

②事業が変質し、価値を損ねてしまうことがある

M&Aでの事業承継では、第三者に事業を譲渡するため、それまでの経営理念や方針が大きく変わってしまう可能性があります。親族内での事業承継でも同じリスクはありますが、後継者教育によって防ぐことでできる一方、M&Aでの事業承継では基本的に防ぐ手段がありません。よくあるのはM&Aの事業承継の後、その経営方針が合わずに、従業員が流出し、事業が変質してしまったり継続困難になってしまったりするケースです。事業の価値を損ねないよう、事業承継時の条件に経営方針について含めるか、社風を理解した後継者を選ぶようにしましょう。

M&Aでの事業承継を考えている方が、今からすぐできることは、まず何より、経営状態の見える化です。部外者にもわかるように、どういう事業経営をしているのか、キャッシュフローや事業の流れ、取引先の状況などを図解、文章化して整理することから始めましょう。経営資源や価値、事業が目指すものとは何かを説明できるようにした上で、どうしても譲れない、相手に飲んでほしい「条件」を洗い出しましょう。そして、事業を譲ってもいい相手が現れた時に、その条件を提示できると、スムーズに事業承継の話を進めることができるはずです。

また、更なる企業価値を向上させる施策をしましょう。見える化にもつながりますが、ノウハウや特許などを含めた資産を整理した上で、訴訟などの対外的なトラブルは片をつけておきましょう。負債や在庫はなるべく抱えないようにし、できるだけ正常なサプライチェーンになるようにしておきましょう。解決できていないことは経営課題として、洗い出しておくことも重要です。

M&Aでの事業承継のために今からできることをもっと詳しく知りたいなら次の記事もあわせてご参照ください。

事業承継を円滑に進めるために「事業承継計画」を作りましょう!

 

事業承継ガイドラインから見る!事業承継を円滑に進めるための5つのポイント

 

4.まとめ

どんな業界・業態でも事業経営する限り、いつかは来る「事業承継」。円滑な代替わりのために、特に気をつけたいこととしては、主観的な思いを後継者に押し付けないことです。「手間暇かけて人の喜ぶ顔が見たい」という思いをもって事業を続けてきた方が多いかもしれませんが、後継者が同じ価値観を持つとは限りません。今は、AIやIoTなどの先端技術を活用して、手間をかけないことを重視する経営者も増えています。最終的に目指すべき姿が一致しているのであれば、根っこは同じだと考え、枝や葉の違いを楽しみ、事業が後継者の色にどう染まるかを楽しむ心を持つとよいでしょう。M&Aでの事業承継によって、あなたの育てた事業という苗が、あなたが想像もしなかった未来をつくります。そんな驚きと笑顔であふれる未来を見るために、ぜひ今から第一歩を踏み出してみてください。

 

もっと詳しくM&Aによる事業承継を知りたい方は「経営者は絶対読むべき事業承継の基礎知識」もあわせてご参照ください。

経営者は絶対読むべき事業承継の基礎知識

 

事業承継の相談先に悩んでいる方は「事業承継に悩んだら?誰に相談したら良い?悩みに応じたオススメの専門家は?」をあわせてご参照ください。

事業承継に悩んだら?誰に相談したら良い?悩みに応じたオススメの専門家は?