複数の遺贈がある場合の遺留分減殺の順序をご存じでしょうか?
今回は、遺留分減殺の順序をご紹介していきます。
1.遺留分減殺請求の対象について
遺留分減殺請求は,遺留分権者の遺留分を侵害する被相続人の法律行為に対してこれを行います。
そして,遺留分減殺請求の対象となる被相続人の法律行為としては,遺贈、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言、死因贈与、生前贈与などがあります。
2.遺留分減殺請求を行う順序
上記のような遺留分減殺請求の対象となる被相続人の行為が複数ある場合,遺留分減殺請求は,まず遺贈に対してこれを行い,それでも足りないときに限り贈与に対して行うことができるとされています(民法1033条)。
これは,贈与については遺贈よりも前に財産の移転が行われていることから,相続開始時に近い遺贈からまず遺留分減殺の対象とする,という考え方に基づいています。
その考え方から,贈与の中でも死因贈与は生前贈与よりも先に遺留分減殺請求の対象となるとされています(東京高裁平成12年3月8日判決)。
従って,遺留分減殺請求を行う順番は以下のとおりとなります。
①遺贈,特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言
②死因贈与
③生前贈与
そして,遺贈が複数ある場合や,遺贈と相続させる旨の遺言が同時に存在する場合は,その目的の価額の割合に応じて減殺することが規定されています(民法1034条)。
3. 受遺者(受贈者)が無資力の場合
前記のとおり,遺留分減殺請求は,まず遺贈に対してこれを行い,それでも足りないときに限り贈与に対してこれを行うことができるとされています。
では,遺贈を受けた者が,遺留分減殺請求を受けた時点では,既に遺贈を受けた財産を使い果たす等して無資力の場合に,遺留分権者は,死因贈与や生前贈与を受けた者に対して遺留分減殺請求権を行使できるのでしょうか。
この点について,民法1037条には,
「減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する」
と規定されており,先順位の受遺者(受贈者)が,遺贈を受けた財産を使い果たしているからといって,次順位の死因贈与や生前贈与を受けた者に対して,遺留分減殺請求を行うことはできないとされているのです。
4.具体例
以下のような事例を考えてみます。
・相続人は配偶者Aと子B,Cの3人。
・被相続人は平成27年3月に死亡。
相続財産は1000万円で、BとCに2分の1ずつに相続させるとの遺言あり
・被相続人は平成26年8月にCに2000万円を生前贈与
・被相続人は平成26年1月に,甥Dに1200万円を生前贈与この場合,遺留分の算定基礎となる相続財産は,4200万円(1000万円+2000万円+1200万円)となり,Aの遺留分は4200万円×1/4=1050万となります。
そして,遺留分現在請求の対象は,生前贈与より遺言の方が先順位の対象となり,かつ価額に応じて減殺請求することになるので,
①まず,B及びCに対する1000万円を相続させるとの遺言(Bに対して500万,Cに対して500万)に対して,
次に,生前贈与のうち相続開始に近いものが対象になり,かつ,①で足りない部分に限られるので,
②Cに対する生前贈与(50万円分)に対して
という順番で減殺請求を行うことになります。
この場合に,仮に,BやCが無資力であったとしても,上記①,②に記載された者や記載された部分以外の点について遺留分減殺請求を行うことはできない
ということになります。
まとめ
遺留分減殺請求の順序はわかりましたか?
遺留分減殺請求の際は、専門の弁護士に相談した方がよいでしょう。